大判例

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広島地方裁判所 平成元年(わ)253号 判決

本籍

横浜市保土ヶ谷区法泉一丁目六六番地

住居

広島市中区中島町一〇番二二-三〇二号

飲食業

青木清一

昭和二一年三月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官見越正秋出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金七〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、広島市中区銀山町五番一〇号第二エコービル二階所在の飲食店「ナイトサパーぼるど」及び広島市中区胡町二番一一号第二ダイヤモンドビル四階所在の飲食店「ニュージョイ」を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て

第一  昭和五九年分の実際の所得金額が二九九八万七二七五円で、これに対する所得税額が一二三〇万四〇〇〇円であるにもかかわらず、前記各店の売上げの一部を除外して仮名預金を設定するなどの方法により右所得の一部を秘匿した上、同六〇年三月一四日、広島市中区上八丁掘三番一九号所在の広島東税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三四一万二六一〇円で、これに対する所得税額が四〇万四九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により所得税一一八九万九一〇〇円を免れ

第二  昭和六〇年分の実際の所得金額が三一一〇万九七〇〇円で、これに対する所得税額が一二九五万三五〇〇円であるにもかかわらず、前同様の方法により右所得の一部を秘匿した上、同六一年三月一四日、同区加古町九番一号所在の広島西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三二〇万七五六〇円で、これに対する所得税額が二九万六一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により所得税一二六五万七四〇〇円を免れ

第三  昭和六一年分の実際の所得金額が二三五六万七九五八円で、これに対する所得税額が八五〇万六八〇〇円であるにもかかわらず、前同様の方法により右所得の一部を秘匿した上、同六二年三月一三日、前記広島西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三六一万八二六〇円で、これに対する所得税額が四一万円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により所得税八〇九万六八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

括弧内の番号は証拠等関係カード記載の検察官請求の証拠番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の公判調書(第三二ないし第三四回)中の各供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書(一三〇、一三一)

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(一〇五ないし一二八)

一  被告人作成の「答申書」と題する書面(一二九)

一  証人佐々木和司(第四回、第五回、第七回)、同園山隆弘(第八回、第九回)、同大下利典(第一〇回)、同村上隆治(第一一回)、同新田義彦(第一二回)、同前田利之(第一三回)、同大園恵子(第一四回)、同佐藤綾子(第一五回)、同小竹富子(第一六回)、入江裕子(第一七回)、同有田邦彦(第一八回)、同山本和行(第一九回)、同富岡章浩(第二一回)、同栗田芳敬(第二二回)、同岡林貞子(第二三回)、同林谷順子(第二四回、第二五回)、同今井利子(第二六回)、同宮崎ムツ子(第二七回)及び同山田弘(第二八回)の公判調書中の各供述部分

一  証人赤沼正一、同小野沢信昭、同田中正子及び同中川礼子に対する当裁判所の各尋問調書

一  桝田幾子の大蔵事務官に対する質問てん末書(三一)

一  大蔵事務官作成の「青木清一の領収済通知書(写)」と題する書面(四三)

一  大蔵事務官作成の「青木清一の関係書類綴」と題する書面(四四)

一  大蔵事務官作成の調査書(七、八、一一ないし一五、一七ないし二三)、調査事績報告書(九、一〇、一六)、「ナイトサパーぼるど売掛台帳(1/2)」(一三七)、「同(2/2)」(一三八)と題する書面及び「ニュージョイ売掛台帳」と題する書面(一三九)

一  広島中央警察署長作成の証明書(四七)

一  広島県信用組合本店営業部長(二四)、呉信用金庫広島支店支店長(二五)、株式会社広島銀行加古町支店支店長(二六)、同銀山町支店支店長(二七)、株式会社富士銀行広島支店支店長(二八)、株式会社親和銀行広島支店支店長(二九)、山根ヤチエ(三〇)、三都テナントサービス株式会社代表取締役(三二)、山本登志子(三四)、有限会社ノブデザイン代表取締役(三五、三六)、有限会社大野店装代表取締役(三七)、竹本和子(四〇)、神部啓子(四一)、小田億株式会社取締役社長(四二)、株式会社テレビ新広島取締役社長(四五)、株式会社中國新聞トラベルサービス代表取締役(四六)、広島市信用組合薬研堀支店支店長(一三六)作成の各証明書

一  島中徹(三八)、株式会社ダイイチ代表取締役(三九)、広島ガス株式会社営業事務部長(四九)、坂郵便局長(五〇)、広島商工会議所共済制度推進室富岡章浩(五一)、第一生命保険相互会社収納課長(五二)、株式会社中国時計店代表取締役(五三)、ファミリー信販株式会社代表取締役(五四)、三洋電機クレジット株式会社中国支店支店長(五五)、藤和平和公園前コープ管理組合理事長(五六)、国民金融公庫広島支店支店長(五七)、入江裕子(五八)、広島市水道事業管理者(五九)、中国電力株式会社広島営業所所長(六〇)、福岡空港ビルディング株式会社代表取締役(六一)、株式会社本郷カントリー総務部長(六二)、広島市中区長(六三)、小竹洋三郎(六四)、フランスベッド販売株式会社西日本事業部事業部長(六五)、有限会社大城食品代表取締役(六七)、広島県税事務所長(六八ないし七〇)、有限会社小幡呉服店代表取締役(七一)、秋本甚市(七二)、NTT広島中央支社支社長(七三)、中央氷業株式会社代表取締役(七四)、岸弘(七五)、広島商工会議所会頭(七七)、桃川玲二(七八)、安田火災海上保険株式会社広島支店代表者(七九)、明治生命保険相互会社銀振収納課(八〇)、住友海上火災保険株式会社広島支店長(八一)、興亜火災海上保険株式会社中国業務部部長(八二)作成の各回答書

一  山口隆美(三三)及び国好平八郎(六六)作成の各答申書

一  浜本哲則作成の上申書(七六)

一  押収してある青木様専用ノート一冊(平成二年押第四五号の2)、金銭出納帳一冊(同押号の3)、No.2ぼるどと記載の売掛帳(昭58年~)一綴(同押号の4)、S61年(新台帳に移帳済み)と記載の売掛帳一綴(同押号の5)、ぼるど出納帳一冊(同押号の6)、ニュージョイ出納帳一冊(同押号の7)、No.1ぼるど売掛帳一綴(同押号の8)、No.2ぼるど売掛帳(昭62年~)一綴(同押号の9)、売上帳ぼるど一綴(同押号の10)及び入金ノート一冊(同押号の11)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(二)

一  押収してある所得税の確定申告書一枚(五九年分・平成二年押第四五号の1の2)

判示第二、第三の事実について

一  検察官及び弁護人作成の合意書(一六五の二)

一  検察官作成の報告書(一六六)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(三)

一  押収してある所得税の確定申告書一枚(六〇年分・平成二年押第四五号の1の3)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(四)

一  押収してある所得税の確定申告書一枚(六一枚分・平成二年押第四五号の1の4)

なお、証拠によると、被告人の昭和五九年の所得金額は三〇〇八万八二七五円であると認められるから、所得税額も変わることになるが、訴因の限度で判示のとおり認定した。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、所得税法二三八条一項にそれぞれ該当するところ、いずれも、その免れた各所得税の額が五〇〇万円をこえるので、情状により同条二項を適用し、各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を併科することとし、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法律による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役一〇月及び罰金七〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

一  本件は、被告人が昭和五九年から同六一年までの三年間の所得金額を隠蔽して、合計三二六五万三三〇〇円の所得税を免れたという事案である。

二  ほ脱金額は右のとおり多額であるうえ、ほ脱率は最低でも九五パーセントを超え(平均で約九六・五パーセント)ており、結果は相当に重いというべきである。

また、被告人が右行為をなした動機は、自己の利益を少しでも保持したいという利己的なものであって、酌量の余地は全くなく、所得隠しの態様も、仮名・借名でいわゆる隠し預金を多数なし、また、酒類の仕入額につき、あらかじめ仕入先に帳簿の操作を依頼するなど計画性が強く窺われるのであって、悪質といわざるを得ず、強い非難を免れない。

以上の事情及び所得に応じ納税するのは国民の基本的義務であることに照らすと、被告人の刑事責任は重いというべきである。

三  しかしながら、被告人は本件行為を反省し、現在において本件脱税行為自体を認めるに至ったこと、当然のことながら本件が発覚したことで、延滞税、重加算税等により被告人は相当多額の負担を余儀なくされており、相応の社会的制裁を受けていること、被告人にはさしたる前科前歴もないこと等、被告人に有利に斟酌すべき事情も多数認められる。

四  そこでこれらの事情を総合考慮した上、被告人に対しては主文の各刑を科した上で、懲役刑については今回に限りその執行を猶予して、社会内で自力更生する機会を与えるのが相当と判断した。(求刑 懲役一〇月及び罰金一〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷岡武教 裁判官 池本寿美子 裁判官 結城剛行)

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